皆さんこんにちは。Rakuです。
・「会社は別人格」ってよく聞くけど、実際どういう意味?
・会社が借金しても、社長個人は払わなくていいの?
・「法人格否認」って、どんなときに使われるの?
そのような考えを持つ方多いと思います。
この記事では、会社法の出発点を解説します。
※ この記事が扱うのはマレーシアの法律です。条文は Companies Act 2016(2016年会社法)を指します。日本の会社法とは制度が異なります。
会社法のほぼすべては、たったひとつの原則から出てきます。「会社は、その所有者とは別の人格である」。この一点を本当に理解すると、あとは応用になります。
ぜひ最後まで読んでみてください!
会社の種類
まず分類から。会社は社員の責任の形で分かれます。
- 株式有限責任会社:未払込みの株式金額までしか責任を負わない。いちばん一般的
- 保証有限責任会社:解散時に拠出を約束した金額まで責任を負う。非営利団体などに使われる
- 無限責任会社:社員が無限の責任を負う
さらに非公開会社と公開会社に分かれます。非公開会社は株式の譲渡に制限があり、社員数にも上限があります。公開会社は制限がなく、証券取引所に上場できるのはこちらです。
ちなみに一定の人数を超える事業は、会社として登記しなければならないという規律もあります。大人数の共同事業をパートナーシップのまま続けることは認められていない、ということですね。
設立の効果:別の人格が生まれる
登記によって会社が成立すると、こうなります。
これらはすべて「別の人格である」という一点から導かれます。別の人格だから自分の名で訴えられるし、自分で財産を持てるし、構成員が替わっても存続するわけですね。
Salomon 判決:すべての出発点
会社法でいちばん重要な判例が Salomon v A Salomon & Co Ltd [1897] です。
事実
- 靴の製造業を営んでいた Salomon 氏が、自分の事業を会社化した
- 株式のほとんどを自分が持ち、残りを家族に少しずつ割り当てた(当時の最低人数を満たすため)
- 会社は事業を買い取る代金の一部として、Salomon 氏に担保付きの社債を発行した
- その後、会社は経営に行き詰まり清算に入った
- 財産は担保付き債権者(=Salomon 氏本人)への弁済で尽き、無担保債権者には何も残らなかった
無担保債権者は反発しました。「この会社は Salomon 氏そのものではないか。自分が自分に担保を設定して、優先的に回収するなど不当だ」と。
貴族院の判断
ところが最終的に、Salomon 氏が勝ちました。示された判断は3点です。
- 会社は適法に設立されている。法律の要件を形式的に満たしている以上、有効である
- 会社は、設立した者とは別の法人格である。たとえ実質的に一人の会社であっても
- したがって会社の債務は会社の債務であり、Salomon 氏個人の債務ではない
この判決が確立したのは「法人格の独立」です。
形式的に要件を満たしていれば、実質が一人の事業であっても、会社は別人格。
近代の会社制度は、ここから始まりました。有限責任も、投資も、企業グループも、すべてこの原則の上に乗っています。
別人格であることの「裏と表」
この原則は、株主に有利に働くこともあれば、不利に働くこともあります。2つの判例が対照的です。
不利に働いた例:Macaura v Northern Assurance Co [1925]
ある人が、所有していた木材を会社に譲渡しました。ところが火災保険は自分の名義のままにしていました。木材が火災で焼失し、保険金を請求しました。
保険金は支払われませんでした。木材はすでに会社の財産であり、本人には被保険利益がなかったからです。
ほぼ全株を持っていても関係ありません。会社の財産は株主の財産ではない——原則がそのまま適用された形です。
有利に働いた例:Lee v Lee’s Air Farming Ltd [1961]
ある人が農薬散布の会社を設立し、株式のほぼ全部を保有し、唯一の取締役であり、同時に会社に雇われたパイロットでもありました。業務中の墜落事故で亡くなり、遺族が労災補償を請求しました。
争点は「自分が支配する会社の『労働者』になれるのか」。
枢密院はなれるとしました。会社は別人格なので、その別人格と雇用契約を結ぶことができるからです。遺族は補償を受けられました。
この2つを並べると、原則の性格がよく分かります。法人格の独立は、株主を守る道具であると同時に、株主を縛る原則でもある——都合よく使い分けることはできません。
法人格否認:ベールを外す
原則が強力すぎると、濫用が起きます。そこで例外的に、会社と背後の人物を同一視することがあります。これが法人格否認(ベールを外す)です。
ただし例外はあくまで例外です。裁判所は簡単には認めません。
制定法による場合
代表例が詐欺的な取引に関する規定です。
清算の過程で、債権者を欺く意図をもって事業が行われていたことが判明した場合、裁判所は、そこに関与していた者に会社の債務について個人的な責任を負わせることができます。
「会社の形を使えば逃げられる」を封じる規定ですね。
判例による場合
裁判所がベールを外すのは、おおむね次のような場合です。
- 詐欺や不正の道具として会社が使われている
- 既存の法的義務を回避するために会社が設立された(競業避止義務から逃れるための会社など)
- 会社が単なる隠れ蓑で、独立した実体がない
- 法律や制定法の目的を達成するために必要な場合
ここで大事な区別があります。
「将来の責任を限定するために会社を使う」のは、制度が予定している正当な利用です。Salomon 氏がやったのはこれ。
一方、「すでに負っている義務から逃れるために会社を使う」のは濫用です。
時間の前後が、適法と違法を分けています。
マレーシアの裁判所も、この原則を一貫して適用してきました。株主と会社は別であり、株主が会社の財産を直接に持つわけではない——そうした判断が積み重なっています。
パートナーシップとの比較でまとめる
| パートナーシップ | 会社 | |
|---|---|---|
| 法人格 | なし | あり |
| 責任 | 無限・連帯 | 原則として有限 |
| 財産の帰属 | パートナー全員 | 会社自身 |
| 存続 | 構成員の変動で影響 | 永続する |
| 訴訟 | パートナーの名で | 会社の名で |
| 設立と維持 | 軽い | 重い(開示・監査など) |
会社制度は「取引をする」ためのものです。有限責任という強力な恩恵を与える代わりに、登記と開示によって外部から見えるようにする。この交換が制度の根っこにあります。
まとめ
- 会社法のほぼすべては「会社は別の法人格である」という一点から出てくる
- Salomon 判決が、実質一人の会社でも別人格であることを確立した
- 別人格の原則は株主に有利にも不利にも働く。都合よく使い分けられない
- 法人格否認は例外。詐欺、義務の回避、隠れ蓑などの場合に限られる
- 将来の責任を限定するのは正当、既存の義務から逃れるのは濫用
「会社は別人格」という言葉は、聞くと当たり前に思えます。でも Macaura のように、ほぼ全株を持っていても自社の財産に保険をかけられないと言われると、その厳格さが実感できるのではないでしょうか。原則は、便利なときだけ都合よく使えるものではない——そこが法の面白いところだと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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