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契約はいつ成立するのか|申込みと承諾の基本をわかりやすく解説

皆さんこんにちは。Rakuです。

・値札が付いている商品、店は必ず売らないといけないの?
・「返事がなければ承諾とみなします」って有効なの?
・メールを送った瞬間に契約は成立している?

そのような考えを持つ方多いと思います。

この記事では、契約がいつ成立するのかを解説します。

※ この記事が扱うのはマレーシアの法律です。条文は Contracts Act 1950(1950年契約法)を指します。日本は大陸法系で前提が異なるため、同じ問題でも結論が変わります。

マレーシアの契約法には、他の英語圏の教材と違う大きな特徴があります。契約法が法典化されていて、条文があるのです。英国の教科書は判例だけで説明しますが、マレーシアではまず条文があり、判例はその解釈になります。

ぜひ最後まで読んでみてください!

合意と契約は同じではない

第2条(h)項が、契約をこう定義します。

契約とは、法によって執行可能な合意である。

つまり契約には2つが必要です。①合意があること、そして②その合意が法によって執行可能であること。

すべての契約は合意ですが、すべての合意が契約ではありません。友達と晩ご飯の約束をするのは合意ですが、契約ではない。執行可能にするものが何もないからです。

執行可能にするものは3層ある

  • 第1層:合意の土台——意思の合致。これを実現するのが申込みと承諾
  • 第2層:何らかの対価——約因(別記事で扱います)
  • 第3層:法的に拘束される意思——それに加えて、行為能力、自由な同意、目的の適法性、内容の確定性

3層を3つの別の質問として読んでください。①当事者は本当に合意したか ②双方が何かを与えたか ③これを法的に拘束力あるものにするつもりだったか。事例問題は、この3つのどこででも切れます。

申込みとは何か

第2条(a)項の定義を、3つに分けて読みます。

  • 相手に示す——伝達されなければならない
  • 何かをする/しない意思——対象は作為でも不作為でもよい
  • 相手方の同意を得る目的で——発言者は「話を終わらせる YES」を求めている

実務上のテストは、この一言です。
「相手が YES と言った瞬間に、話が終わってよいか」
終わってよいなら申込み。相手に条件を出し直してほしいなら申込みの誘引です。

申込みの誘引:4つの類型

申込みの誘引とは、相手に申込みをしてもらうための誘いのこと。承諾されても契約は成立しません。

この4つは、承諾されても契約にならない ① 広告② 商品の陳列 ③ 競売の入札の呼びかけ④ 情報の提供 商品の売却広告は通常、誘引と解される Partridge v Crittenden [1968] 店頭やスーパーの棚の陳列は 売る申込みではない — Fisher v Bell [1960] 槌が落ちる前なら入札は撤回できる Payne v Cave (1789) 最低価格を述べただけでは申込みでない Harvey v Facey [1893] この原則が守っているのは「断る権利」です。 陳列が申込みなら、在庫切れでも値札の誤りでも店は売る義務を負ってしまいます。

4つ目の Harvey v Facey が面白いので紹介します。電報3通のやり取りでした。

  • 買主側:「売ってくれますか。最低現金価格を電報で」
  • 売主側:「最低価格900ポンド」
  • 買主側:「900ポンドで買うことに同意します」——返事はなし

枢密院は、売主は申込みをしておらず、単なる情報の提供にすぎないとしました。

2通目が罠です。買主は2つのことを聞きました——売ってくれるか、価格はいくらか。売主は2つ目にしか答えていません。価格を答えることは、売ることに同意することではないんですね。

例外:Carlill 事件

「広告は申込みの誘引」が原則ですが、有名な例外があります。Carlill v Carbolic Smoke Ball Company [1892] です。

  • 会社が新聞広告で、自社製品を指示どおり使えば風邪とインフルエンザを予防すると宣伝
  • それでもかかった者には100ポンドの報奨金を支払うと申し出た
  • 本気度を示すため、銀行に1,000ポンドを預けたと広告に明記
  • 原告は製品を購入し指示どおり使用したが、インフルエンザにかかった

裁判所は原告の請求を認めました。例外になった決め手は1,000ポンドの預託です。会社は製品を褒めただけでなく、金を積んで本気であることを示した。これが広告を「承諾可能な申込み」に変えました。

もうひとつの教訓もあります。会社は「特定の相手方がいないから契約は成立しない」と主張しましたが、退けられました。申込みは世界に向けてすることができ、条件を満たした者なら誰でも承諾できる——そして履行そのものが承諾になるのです。

申込みはどう終わるか(第6条)

  • 撤回
  • 期間の経過
  • 拒絶・反対申込み
  • 承諾
  • 条件付き申込みの条件不成就
  • 申込者の死亡・精神障害

「承諾」が終了事由に入っているのに驚くかもしれませんが、ひっかけではありません。承諾されれば申込みは役目を終え、約束に変わります。だから同じ申込みを2回承諾することはできません。

反対申込みは、元の申込みを消す

Hyde v Wrench [1840] が定番です。

  • 売主が農場を1,000ポンドで売ると申し込んだ
  • 買主は950ポンドで反対申込みをした → 売主は拒絶
  • 2日後、買主は元の1,000ポンドの申込みを承諾しようとした

契約は成立しませんでした。950ポンドの反対申込みによって、元の申込みは消滅していたからです。

ただし「単なる問い合わせ」とは区別してください。
「950ポンドでご検討いただけますか?」→ 質問。申込みは生き残る
「950ポンドで申し込みます」→ 反対申込み。申込みは消える
言い方ひとつで結論が変わります。交渉の場面では実務的にも重要です。

承諾の要件と、伝達のタイミング

第7条によれば、有効な承諾は①絶対的かつ無条件であること ②通常かつ合理的な方法で表示されることが必要です(申込みが方法を指定していればそれに従う)。

①が反対申込みの規律の条文上の根拠です。変更を付けた承諾は、定義上「無条件」ではありませんから。

第4条第2項:2つの時計が動いている

ここがマレーシア契約法でいちばん面白い条文です。承諾の伝達がいつ完了するかを、当事者ごとに別々に定めています。

誰に対していつ完了するか意味
申込者に対して承諾者の手を離れて発送されたとき申込者は投函の時点で縛られる
承諾者に対して申込者が知ったとき承諾者は到達まで縛られない
1つの瞬間を定めているのではなく、2つ定めていて、しかもわざと違えている

そしてここに第5条第2項が重なります。「承諾は、承諾者に対して伝達が完了する前ならいつでも撤回できる」

この2つを郵便のタイムラインに置いてみると——

  1. 投函の瞬間:申込者に対しては完了。この時点から申込者は撤回できない
  2. 郵送中:承諾者に対してはまだ未完了。承諾者はまだ撤回できる(電話などで撤回が先に届けばよい)
  3. 申込者が知った瞬間:双方に対して完了。もう誰も撤回できない

結果はわざと非対称です。
手紙が投函された時点で、申込者は縛られるが承諾者は縛られない。郵送中は、片方だけが逃げられます。
ここが一般の英国法と分かれるところ。英国法では投函時に契約が成立し、承諾者が引き返す余地はありません。マレーシアの条文は、明文でその余地を作っています。

なお、電話・対面・即時的な通信の場合は投函主義は適用されず、相手が知ったときに効力が生じます。

郵便のルールが適用されない場合も押さえておきましょう。適切に投函されていない/宛先が間違っている/申込みが明示で排除している/明白な不都合や不合理を生じるとき。3つ目が実務的に重要で、「金曜17時までに到達すること」と書かれていれば、木曜に投函しても土曜到着では成立しません。

沈黙は承諾になるか

Felthouse v Bindley [1862] が答えを出しています。

  • 叔父が甥の馬を買うと申し出て、「返事がなければ自分のものになったものと考える」と述べた
  • 甥は返事をしなかった
  • 後日、競売人が誤ってその馬を売却してしまった
  • 叔父は競売人を訴えた

裁判所は、承諾はなかったとしました。叔父には沈黙によって甥に売却を押しつける権利はないと。

ここで事実をよく見てください。甥は実際に売るつもりでした。競売人に「馬は売らないで」と伝えていたのですから。ただそれを叔父に伝えていなかっただけです。

つまり要点は「甥が同意していなかった」ことではありません。「申込者が『沈黙は承諾とみなす』と宣言して契約を作り出すことはできない」ということ。この原則が守っているのは、申込みを受けた側です。

だから逆に、承諾する側が自分から「自分の沈黙は YES だ」と言うのは自由です。自分の権利を自分で手放しているだけですから。

法的に拘束される意思

最後の要素です。裁判所は合意を2つに分類して、推定を働かせます。

  • 社会的・家庭内の合意——法的関係を作る意思を持たないと推定
  • 事業上・商事の合意——法的関係を作る意思を持つと推定

ここで肝心なのは、この推定は覆しうるということ。分類は出発点であって結論ではありません。

Balfour と Merritt はセットで読む

どちらも夫婦間の、月々の金銭の約束です。それなのに結論は正反対でした。

Balfour v Balfour (1919)Merritt v Merritt (1970)
状況婚姻関係が円満なうちの取り決め夫が妻を捨てた後の取り決め
形式口約束妻が書面への署名を求めた
結論契約ではない契約として有効
同じ「夫婦の約束」でも、タイミングと形式で結論が分かれる

Merritt で示されたテストは、「合理的な傍観者が、当事者は法的に拘束される意思を持っていたと考えるか」です。そして書面や正式な合意の存在は、その意思の証拠になります。

ちなみに Balfour で裁判所が挙げた理由のひとつが興味深いところで、「夫婦の約束を全部契約として扱ったら、裁判所が足りなくなる」というものでした。これは法理ではなく政策の理由です。過失のところで出てきた「公正・正当・合理的」要件と、同じ種類の推論ですね。

まとめ

  • 契約=法によって執行可能な合意。すべての合意が契約になるわけではない
  • 申込みと誘引の見分け方は「相手の YES で話が終わってよいか」
  • 反対申込みは元の申込みを消す。単なる問い合わせとは違う
  • 承諾の伝達は当事者ごとに完了時点が違う。マレーシアでは郵送中の撤回が可能
  • 沈黙を承諾とみなすことを、申込者が押しつけることはできない

「申込みか、誘引か」——この一点を見誤ると、その後の分析が全部ずれます。日常のやり取りでも、自分はいま相手を縛る発言をしているのか、それとも提案を募っているだけなのかを意識すると、契約の感覚がつかめてきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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