皆さんこんにちは。Rakuです。
・コモンローって、日本の法律と何が違うの?
・「判例が法になる」という仕組みがピンとこない
・マレーシアで働く・学ぶことになったけど、法制度の基礎を知りたい
そのような考えを持つ方多いと思います。
この記事では、マレーシアの法体系を入門者向けに解説します。
※ この記事が扱うのはマレーシアの法律です。日本は大陸法系で前提が異なるため、同じ問題でも結論が変わります。日本の法律の解説としては読まないでください。
法律の勉強は暗記に見えますが、構造が分かると量が減ります。この記事で渡すのは3つの道具——法の分類、法の源、判例の使い方です。
ぜひ最後まで読んでみてください!
法とは何か
法とは、社会の中で人の行動を規律するために、国家によって承認され執行される規則の体系である。
定義を支える要素は4つ。行為の規則であること/国家が承認していること/執行可能であること/社会に適用されること。
そして法は4つのことを教えます。しなければならないこと、してはならないこと、してよいこと、破ったときの帰結。この4つの枠で読むと、どんな条文も整理しやすくなります。
法の分類:目の前の問題はどの箱に入るか
- 公法——個人と国家の関係。憲法(市民の権利、連邦と州の権限)と刑法(国家に対する罪)
- 国際法——国家間の関係。国家間に通用する法と、異なる国の法が衝突したときの処理(法の抵触)
- 私法——個人間の権利義務。契約法・不法行為法・信託法
このうち、ビジネス法でいちばん大事な区別がこれです。
契約法では、義務は「当事者が合意して作った」もの。だから合意していない相手には及びません。
不法行為法では、義務は「法が課した」もの。合意がなくても、見知らぬ相手にも及びます。
問題を見たら、まず「この義務はどこから来ているのか」を問うのが出発点です。
憲法の最高法規性
連邦憲法は連邦の最高法規です(第4条第1項)。憲法が連邦議会と州議会に立法権を与え、憲法に反する法は無効になります。
ただし文言を正確に。「矛盾の限度において」無効であって、法律全体が倒れるわけではありません。1つの条文だけが違憲なら、その条文だけが無効になります。
法の源:答えはどこに書いてあるか
ここで面白いのが英国法の扱いです。マレーシアは英国の法体系を受け継いでいますが、無条件に適用されるわけではありません。
英国法が適用される条件
民事法に関する法律(Civil Law Act 1956)の第3条第1項が、英国のコモンローとエクイティの準則を受け入れています。ただし地域によって基準日が違います。
| 地域 | 基準日 |
|---|---|
| マレー半島 | 1956年4月7日 |
| サバ州 | 1951年12月1日 |
| サラワク州 | 1949年12月12日 |
そのうえで2つの制限がかかります。
- 現地の制定法が優先する——英国法が使えるのは、その主題について現地の法がない場合だけ。英国法は法体系の空隙を埋めるものです
- 現地の事情に適していること——英国法のうち、現地の条件に適した部分だけが適用されます
つまり英国法は「空隙を埋めるもの」であり、しかも「適合性のフィルター」がかかっているわけですね。
裁判所の階層
- 上級裁判所:連邦裁判所、控訴裁判所、高等裁判所(マレー半島/サバ・サラワク)
- 下級裁判所:セッションズ裁判所、治安判事裁判所
- シャリーア裁判所:イスラム法に関する事項を扱う別系統
階層が重要なのは、上位裁判所の判断が下位裁判所を拘束するからです。だから判例を引くときはどの裁判所の判決かを必ず確認します。
条文をどう読むか:解釈の4つのルール
- 文理解釈:文言を平易・文字どおり・通常の意味で読む。議会の意図は探らない。判事は法を作れないという考え方に基づきます
- 黄金律:文理解釈が不合理な結果をもたらす場合に、文字どおりの意味から離れることを認める
- 弊害除去解釈:その法律が抑えようとした弊害は何かを見る
- 目的的解釈:立法の真の目的に効果を与えることを目指す
黄金律には厳しい閾値があります。少しおかしいという程度では足りません。「裁判所を確信させるほど大きな」不合理が必要です。
弊害除去解釈の分かりやすい例
英国の古い事件(Smith v Hughes [1960])が教科書の定番です。
「街路で客引きをすること」を禁じる法律の下で、被告人たちはバルコニーから通行人に呼びかけていました。「自分たちは街路にいなかった」と主張したのです。
文理解釈なら被告人が勝ちます。バルコニーは街路ではありませんから。
でも裁判所は「議会が解決しようとしていた問題は何か」を問いました。それは通行人が嫌がらせを受けることであり、その問題は勧誘が歩道から来ようが窓から来ようが起きます。結果は有罪でした。
マレーシアでは目的的解釈が「法律上の指示」
ここがマレーシア法の重要な特徴です。
解釈に関する法律(Interpretation Acts 1948 and 1967)の第17A条が、こう定めています。
「法律の根底にある目的または趣旨を促進する解釈は、それを促進しない解釈より優先されるものとする」
つまりマレーシアでは、目的的解釈が裁判所の好みではなく、法律上の指示になっているわけですね。
さらに連邦裁判所の判例(Chin Choy & Ors v Collector of Stamp Duties [1979])が、文字どおりの解釈が不合理を招きうる場合には、議会の議事録を参照してよいとしています。いつでも見てよいわけではない——条件つきである点が大事です。
判例の使い方:拘束力があるのはどの部分か
判決文は何十頁もありますが、拘束力を持つのは一部だけです。3つに分けて考えます。
| 要素 | 中身 | 拘束力 |
|---|---|---|
| 既判力 | その決定の直接の当事者を拘束する最終命令 | 当事者のみ |
| 判決理由 | 結論に至るために必要だった理由・論拠 | あり |
| 傍論 | 争点を構成しない、法についてのその他の言及 | なし(ただし影響力は強い) |
そして先例拘束の原理——「決定に立脚する」という考え方が、法の予測可能性を支えています。
- 利点:一貫性と確実性、平等と公正、効率性
- 欠点:古い先例が拘束し続ける、社会の変化への対応が遅い、変えるには議会の立法が必要になりうる
気づくでしょうか。欠点は利点の裏返しです。結果を予測可能にする確実性は、そのまま時代遅れの準則を生き残らせる硬直性でもあります。
先例に従わなくてよい2つの場合
- 不注意による判決:制定法または拘束的先例を知らずに下された判決。そもそも拘束力を持ちません
- 事実の重要な相違:いまの事件と、先例を作った事件とのあいだに重要な違いがある場合
この2つは、主張の性質がまったく違います。
前者は先例そのものを攻撃します——不注意に下されたのだから、最初から拘束力がない、と。後者は先例を良い法として受け入れたうえで、ここには当てはまらないと言います。どちらを主張しているのかを明示できると、議論がはっきりします。
まとめ
- ビジネス法の背骨は「義務がどこから来ているか」——契約なら合意から、不法行為なら法から
- 憲法違反の法律は「矛盾の限度において」無効
- 英国法は現地法がない場合に、現地の事情に適する範囲でのみ適用される
- マレーシアでは目的的解釈が法律上の指示になっている
- 判例で拘束力を持つのは判決理由だけ。傍論には拘束力がない
コモンローの世界は、「条文を読む」だけでは終わらないところが特徴です。条文があり、その解釈の判例があり、その判例のどこが拘束力を持つかを見極める——この三層構造に慣れると、一気に読めるようになります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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